簿記3級からの経理の仕事「監査対応」

会議室でメモを取る手元
経理部門で対応する「監査」ってどんなことをするの?
会計資料を提供してチェックを受けた上で、質問に答えたり裏付け資料を更に提供したりする仕事です。

監査業務の概要と経理担当者としてどの様なことに注意して仕事に取り組んでいるかをご紹介します。
未経験の方にも仕事のイメージが沸くような記事になっています。
参考になれば幸いです。

経理の仕事の全体像を確認したい方は過去の記事をどうぞ

1. 税務顧問対応

大抵の企業は税理士事務所、税理士法人を顧問契約を結んでいます。

顧問税理士に会計処理から税務申告計算まで依頼している零細企業から顧問弁護士の様に何か重要な論点が発生した時や税務調査で税務署や国税が来たときだけ立ち会ってもらう様な企業まで様々です。

税理士事務所・税理士法人との顧問契約とは

一般的には以下の様なお付き合いの仕方が多いと思います。

  • 会計処理、月次・年次決算数値確定までは自社で行う
  • 月次か四半期程度の頻度で税務監査として帳簿をチェックしてもらう
  • 自社で「正解がわからないようなときに」税務相談をする
  • 税金計算を税務顧問に依頼する
  • 税務調査の立会を依頼する

顧問弁護士はクライアントのために法律を駆使して守るイメージですが、顧問税理士はクライアント企業が適正な税務申告をするように「指導」する役目を負っています。
「法律を守らせる」という側面を持っています。
一方、企業側からすると監査を受けることによって外部からの「お墨付き」をもらって対外的な信頼性を担保していると言えます。
「税務監査」という用語は正式用語ではないのですが税務顧問に帳簿チェックをしてもらうことを「監査」と呼んだりするわけです。
そんな税理士さんと良好な関係を築きながら味方として強みを発揮してもらえるように働きかけるのは経理担当者の手腕にかかっているところです。

経理担当者の税務顧問対応

では、経理担当者には税務顧問対応としてどの様な業務があるのでしょうか?

経理担当者における税務顧問対応業務

  • 決算数値を会計ソフトのデータの受け渡しや帳票の形での提供
  • 月次監査時監査資料(試算表・科目内訳明細・仕訳帳・元帳・証憑書)の提供
  • 月次監査時に追加資料の提供や取引の詳細等各種質問への回答
  • 税金計算に必要なデータの提供
  • 税務相談の相談窓口
  • 税務調査の日程調整・事前準備等の連絡窓口

税務的な適正な処理の指導を受けて、日常業務へ反映させて自社の決算数値の正確性を担保していきます。
税務顧問の専門業務は税務に関することになっていますが会計的な見地からの相談にも乗ってもらえるので頼りになる存在です。
良い関係を築くためには指導を真摯に受け止め誠実な対応をすることが大切です。

経理部門は事業部門の様々な取引について適切なアドバイスをして経理処理の心配を無くして事業に専念してもらう体制を社内に築くことが大切です。
新しい形態の取引を開始したり新事業を立ち上げた時には経理担当者も戸惑うこともあります。
そんな時には顧問税理士に判断を仰ぐことになりますが、きちんとした質問が出来るようにすることが大切です。
契約書や購入物の仕様書等、必要な情報を事前に収集して質問内容を明確にする事業部門と顧問税理士の「つなぎ役」を務められるように日頃から取引の特定に必要な資料の勘所を養うことも大切なスキルとなります。

年次決算が終わったら税務計算に必要なデータを正確に準備することも大切です。
丁寧に指定フォーマットを用意してくれる税務顧問もありますが、その数値の意味するところを理解している方が格段にミスの防止や「やり直し「追加の問い合わせ」」の減少につながります。
単純に「フォーマットに何を埋めればいいか」ということだけでなく、「その数値を使って何を計算しているか」まで理解を深めていくと更に一歩進んだ税務顧問との関係性が築けます。

税務調査の内容は後述しますが、税務顧問と改めて調査準備をしておくことは大変重要です。
調査対象期間の特殊事例等をおさらいして論点となりそうな項目をピックアップして関連資料を万全にしておくことが大切ですが、会社の事情を良く知る企業側が積極的に情報提供することがその基礎となります。

2. 税務署対応

税務署対応とは「税務調査」と「調査以外の問い合わせ等」の対応に関する業務です。

税務調査とは

税務調査は定期的に行われる調査とある目的をもって(例えば外部からの情報で怪しい案件を持ってくる調査)行われる調査に分かれます。

ですからどんなに真面目にやって過去に問題ない調査が続いているからと言って定期的な調査は避けることが出来ません。

明確な決まりがありませんが、3~5年に1度はやってくると考えておいた方が良いでしょう。

通常、税務調査は税金の申告書に記載されている顧問税理士を通じて税務署から打診されます。
会社の規模や目的によって訪問してくる税務調査官の人数は異なりますが、2~3名といったことが一般的です。
日数も2~3日程度を見込んでやってきますが、調査の進捗によって前後する、そんな感じです。

直近の事業年度の帳簿をチェックしながら気になるところを質問されたり追加資料を要求されます。
場合によっては帳簿をチェックしながら、どんどん付箋を貼っていき、まとめて質問されるケースもあります。

1日の調査の最後にその日チェックした内容についてや所感や翌日への持越し課題等を説明されたりして終わります。
調査が続くに従って焦点となる論点が絞られている感じが伝わってきます。
追加資料や質問内容によって「どこを深く掘り下げているのか?」が感じ取れたりします。

最後に誤りを指摘されたりします。
指摘されたこちら側が「はい、仰せの通り」と言う場合は別ですが、大抵はその場で決定することはなく、双方持ち帰りで検討と言うことが多いです。

後日、調査官は上席に、調査をされたこちら側は社内での検討結果を擦り合わせながら調査の結果を確定させていきます。
内容によって結果が確定するまで数ヶ月かかったりもします。

税務調査対応

事前準備編

税務監査のところでも少し触れましたが、税務調査は税務顧問との綿密な準備は欠かせません。
事前に論点整理をして資料等の不備がないか、あれば調査までに補強しておくなどの手当てをします。
場合によっては実際の作業場所の現場見分の様な事もしますので全国に営業所を持つような会社は本社の経理部門や各部門だけでなく各事業所の再点検等もする必要があります。
私自身、全国に営業所がある会社での大規模な税務調査を受けた時には地方の営業所への調査に立ち会うために2泊3日の出張をしたことがあります。
まとまった時間、会議室を押さえなくてはならないのでそんな社内調整もしなくてはなりません。

調査立会

調査の基本はほかの監査と似ていますが、目的が基本的に違います。
税務監査や監査法事による会計監査はある程度網羅的に監査してお墨付きを与えることが目的です。
間違いがあれば訂正させるというチャンスを与えられます。

しかし、税務調査は確定申告を既に行っている企業を調査します。
ですから「間違いが見つかれば」その時点で「間違った申告をしたことが確定してしまう」点を肝に銘じておく必要があります。
「修正申告」という方法で過去の申告の誤りを認めて「修正」する手続きを踏まなければなりません。
しかも通常の定期的な調査でも調査対象は3年間遡りますし、悪質であるとか金額が大きく過去からの継続性があるとみなされれば7年間遡って調査されます。

だからと言って嘘をつくのは最もやってはいけないことです。
調査立会時の発言は「会社としての発言」として認識されるのであいまいなことを断言することも避けるべきです。
できるだけ「ワンクッション」おいて「確認作業の時間をもらってから」回答するなどの慎重さが必要です。

また記録を取ることも大切な仕事です。
「どんなことを質問されてどんな回答をしたか」
「資料として提出したものの一覧」

などを記録します。
コピーを提出するときは提出控えとして会社用のコピーも取っておいてファイリングするとか、PDFとして電子データを専用フォルダに保存しておくと良いでしょう。

事後対応

経理担当者は調査内容と結果を報告書の形にまとめて経理責任者から経営陣等の社内報告をします。
税務に詳しくない人たちにもわかりやすく簡潔にまとめることが重要になります。

その上で疑義となった案件があれば最終的な会社としての回答を用意するための意見集約を行います。
税務顧問との意見交換をした上で経営陣との調整を行い最終的には経理部門が意見をまとめて税務署へ伝えます。

もし過去の経理処理の誤りを認めて修正申告等が必要であれば税務顧問と連携して申告書を作成して、修正にかかる経理処理も行います。
これらもまとめて最終的な報告書にまとめることも経理部門の大切な仕事となります。

税務調査の注意点

  • 調査で誤りが発覚するとその時点で過去の誤りが確定する
  • 税務顧問と連携した綿密な事前準備
  • 嘘をつかず、即答せず慎重な受け答え
  • 正確な調査時の記録(提供資料と質疑内容)

3. 監査法人対応

監査法人への対応も基本的には税務監査と同様に情報提供と必要に応じた質問への回答や追加資料の提供です。
しかしながら監査法人の監査を受けるのは上場企業を中心とした大規模・中規模の企業であり監査手法には多少違いがあります。

監査法人による監査とは

監査法人による監査はほとんどが上場企業等が「法律の定めに従って」監査を受けています。
適正であることの監査表明が無いと上場の要件を満たさなくなってしまいます。
監査法人の監査の目的は株主や一般投資家に対して判断を誤らない様に「対象企業が会計ルールに従って経理処理を行い財務諸表を適正に開示すること」を担保することです。

税務顧問が税務上の適正性をチェックするのとは異なり、上場企業に課せられている会計ルールの遵守が重要となってきます。
監査法人は公認会計士による会計上の監査を行っています。

監査手法にも違いがあります。
税理士法では顧問企業への監査は「全部監査」といって全ての取引をチェックするのに対して、監査法人の監査は対象法人の規模が大きいことが多いことからサンプリングによる監査が一般的です。

税務と会計の違い

あまりそこだけを強調し過ぎると判断を誤ってしまうと言う前置きをしてお伝えしますと…。
税務調査や税務監査は「税金計算上」の正しさをチェックするのに重きを置くので、「所得つまりは利益を過少に申告して税金を少なく計算していないか?」という点を重視します。
一方の監査法人の会計監査は「粉飾決算をして損失隠しをしたり利益の水増しをしていないか?」という点を重視します。
もっと噛み砕くと、税務は「費用を水増ししていないか?売上を隠していないか?」という観点、会計は「売上を水増ししていないか?費用や損失を隠蔽していないか?」という観点を重視しているということです。
もちろん「過度な保守主義」も会計上は正しくはないので一概に会計上においても利益の過大計上だけを見ているわけではありませんが。

「過度な保守主義」
会計の世界で言う「保守主義」とは、「売上の計上は出来るだけ慎重に、経費は出来るだけ漏らさず計上する」という考え方です。
過度な保守主義とは会計ルールを逸脱した行き過ぎた保守主義のことを指します。

経理担当者としての監査法人対応

帳簿や帳票を用意するとか、事前に社内で論点整理をして監査に臨むのは税務調査と同様です。

ただし上場企業は規模も大きく、開示業務等、決算後にしなければならないことが沢山控えておりスケジュールはかなりタイトです。
ですから、論点に対する説明に必要なデータや資料の事前準備は綿密にしておくことが必要です。
期中で行う監査法人との定例のミーティング等をうまく利用してイレギュラーな取引の発生を都度説明しておいたり、監査法人からの意見を聞いておくなどしておくことも大切です。
監査当日に初めて論点になりその説明に手間取ったりしない様にしましょう。

4. 社内監査対応

社内監査とは社内の監査人や監査担当部門からの業務内容の適正性や経理処理の妥当性のチェックを受けることです。

監査役監査

会社法上、取締役の職務執行を監視する役目を負っています。
上場企業でなければ、そもそも監査役が置かれていない場合もあります。

監査役は取締役会で取締役の職務執行について疑義がないことを報告することになっており、決算書にも監査報告書を添付します。
経理部門は主に決算書及びそれを作成するまでの過程に問題ないかどうかについて資料提供したり説明をしたりします。

決算が終わったら取締役会や株主総会のスケジュールとリンクしてに監査役監査のスケジュールも主導的に決めていけるとスムーズに決算後の作業が進みます。

業務監査

社内や親会社などの監査室といった監査部門から業務遂行について監査を受けるのが業務監査です。

決算後は繁忙期のため、期中に実施されることが多いです。
決算数値確定前に行うわけではないので決算そのものと言うよりは業務がきちんとしているかのチェックを受けるという感じです。
必要に応じて業務フローを説明したり、どの様にミス発生の防止をしているかを説明することになります。
普段から努力している点を社内にアピールする機会にもなります。

5. 監査対応から考える経理担当者としての心得

経理担当者は「正しい経理処理」を行い、正しい決算書を作成して「正しく表現」することが任務です。
この場合の「正しい」というのが、「何に対して」なのかを理解しなくてはなりません。
税法や会計法規等を理解することはもちろんですが、社内規定やルールも理解してそれに基づいた業務遂行が大切です。
また「論点となりそうなこと」に気づく目を養うことが大切です。
日常業務の中で出会った取引を漫然と処理するのではなく、
「これっていつもと違う取引だな」
といった「ひっかかりを見過ごさずきちんと内容を把握する」習慣が大事です。

各種監査では過去の取引について説明を求められます。
税務調査の様に7年も前のことを聞かれる機会もあるかもしれません。
その時に「記憶に頼る」様なことなく、「記録を取る」ことが重要になってきます。
取引の記録については「担当者が変わっても」「7年前のことでも」説明できるように「客観的な記録」を心掛けることが大切です。
また客観的な資料として請求書・領収書といった基本的な会計資料だけでなく契約書や仕様書といった外部資料や議事録や社内規則等の正式な内部資料をとても重視されます。
これらの保管状況により誤った処理をしていなくても疑義が生じて説明が長引いたり場合によっては説明不十分で最悪の場合、過去の処理を否認されることさえあります。

税務調査を経験すると「記録の重要性」を経理マンとして痛感するのではないかと思っています。
「書いた人にしか理解できないような記録」では役に立たない場合も多いということも頭に入れておきましょう。

経理業務はこの様に「監査」としてその仕事ぶりと結果を外部から評価される機会が多い仕事です。
評価が悪ければペナルティを受けたり信頼を損なうこともあります。
だからこそ会社は安心して任される人材を配置したいと考えています。

細かなことを言う部署として煙たがれることも多い経理という仕事ですが、この様な背景と期待されている役割を理解して誇りと責任感を持って取り組みたいですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました