簿記3級を学習した方にわかりやすく経理の仕事について紹介します。
実務経験のない人が経理職へのキャリアチェンジを狙っている方は是非ご参考にして下さい。
今回は4つの区分のうち「営業取引の記録」について解説していきます。
1. 営業取引の業務の流れ
営業取引の業務フローをまずはご理解下さい。
会社によって専門部署の業務に相当する部分も経理部門が担っていたり異なる部分もあるかもしれませんが大雑把には以下の様な業務フローなるかと思います。
請求書を入手したら取引を行った部門の担当者が経費を計上、専門部門が計上、経理部門がすべての経費計上を行う等会社によっても異なりますし、発生取引の種類によっても異なります。
上記のフロー図では3種類のパターンを記載してみました。
全社の従業員のPCのリース料みたいに1つの請求書で全社の費用が請求され、それを部門ごとに分離して計上するケースでは発生部門以外の専門部門であるシステム部門とか資産管理部門が計上を担ったりします。
2. 取引の把握
経理では取引を全て「仕訳」という形で会計ソフトに入力され集計されます。
会計ソフトでは元帳に自動転記され試算表として集計値は即時に閲覧可能です。
会計ソフトに事前登録されたマスタにより貸借対照表も損益計算書もボタン一つで出力可能となります。
つまり「仕訳」だけがインプットとなります。
決算書が適切に作成されるかどうかは取引を適正に仕訳として入力することが重要なわけです。
仕訳を適正に入力する第一歩は取引を正確に把握することです。
取引を把握するということ
取引を正確に理解するには2つの要素を入手することです。
- 取引した人しか知らない情報
- 裏付け資料からわかる正確な情報
いつ、どこから、何を、何の目的で購入したか、役務の提供を受けたかは基本的には取引した相手から聞かないとわかりません。
各種のワークフローで現場から経理に提出してもらうことにより把握します。
紙の書類の提出による場合もありますし、経費精算システム等を利用した電子ワークフローでもある場合もありますが、最も重要なことは現場から情報を引き出すことです。
通常は適正に仕訳の形にできるように事前に項目を用意して埋めてもらうことで効率的に処理できる工夫をしていますが、取引の複雑さによってはそこに記載されていない情報が必要なケースもあります。
2つ目に挙げた「裏付け資料からわかる正確な情報」では単価や数量だったり、納品された製品の仕様だったり、1つ目の情報を補完します。
そしてこれらの証拠書類は正確な情報を得るためではなく「対外的な証拠能力」を保つために必要となります。
税務や会計上の必要性から書類は必要な形で保存義務があり経理担当者はこの義務を担保することもとても重要な仕事となります。
なかなか経理的な証拠書類「証憑書」を過不足なく回収することは簡単ではありません。
優秀な経理マンは取引の概要を素早く把握して「担保すべき書類が何なのか?」を特定して回収する能力に長けています。
証憑書にはこんなものがあります
取引を正確に特定するための証憑書には以下の様なものがあります。
- 取引先が発行した請求書・領収書・納品書・見積書・支払明細書・各種計算書
- 自社が発行した請求書・領収書・納品書・見積書・支払明細書・各種計算書の控え
証憑書との突合
突合とは仕訳や仕訳の元となる帳票類に記載された内容と証憑書に記載されている内容を「突き合わせ」することです。
証憑書のどこに必要な情報が書かれているのかを瞬時に読み取る能力が必要とされます。
証憑書の保存
証憑書は税法等でその種類ごとに保存期間が法律で定められています。
ほとんどの書類が原本での保存を7年間等の長期に渡り保存しなければならず、全社から預かった証憑書を確認するだけでなく、必要に応じて閲覧できるように保存することも要求されます。
経理部門では大量の書類を要領よく保存することもしています。
ファイリングも経理の仕事の一つとなっています。
そして今これらの書類の保存を電子化する動き、「ペーパーレス」が活発です。
電子帳簿保存法やe-文書法等に照らしてシステム化して適正かつ効率の良いペーパーレス推進が課題の会社は沢山あります。
ペーパーレスの必要性はコロナウィルスの感染拡大でリモートワークが当たり前となった今、最も注目されている経理の改革項目となっています。
3. 伝票の起票
会計ソフトが発達した今は伝票の起票という言葉はイマイチそぐわないかもしれません。
会計ソフトに仕訳を入力すること、と捉えて頂いた方が良いでしょう。
大きく分けて以下の2種類の方法があります。
- 営業現場や担当部門から上がってくる取引情報を紙によるワークフローで経理へ回付してもらい、経理部門が会計ソフトに入力する方法
- 経費精算システム・給与計算システム・販売管理システム・外注管理システムといったシステムに一次情報を入力してもらい会計ソフトにデータ連携して入力する方法
会社によっても違いますし、取引の違いで処理の方法が異なったりしています。
一部取引は紙のワークフロー、一部取引は電子ワークフローを取り入れたり他システムとの連携をしたりしています。
経理部門が手で入力する業務は以前は正確に速く入力できるということが一つの専門スキルという時代もありました。
しかしながらシステム化やペーパーレスの推進により業務そのものが徐々に少なくなりつつあります。
4. 残高確認
残高の確認により仕訳の入力に過不足がないのか、誤りがないのかを確認します。
また「すべき取引がなされていない」ことも確認していきます。
日次等の短期間での確認する場合もありますが、主には月次単位で残高を確認しることになります。
預金取引であれば口座別の月末残高と会計システムに入力後の口座別残高を一致するかを確認します。
不一致があれば入力データの誤りや処理漏れがないかを確認していきます。
また買掛金の取引先別残高を確認した場合、支払い約定から類推すると本来なら1ヶ月分の取引の残高になるべきところ2ヶ月分の残高であれば支払い漏れがあるかもしれない、というような確認のきっかけとなります。
そのように勘定科目別残高、勘定科目の内訳明細別残高を確認することにより処理漏れや誤りの確認していきます。
5. 営業取引の書類
主な営業取引の例と簡単な特徴をご説明します。
現金取引
現金取引は預金取引と異なり過去の状態を第三者に可視化しにくく証明をするのに手間がかかります。
支払いの証憑書は領収書が必須となります。
できるだけ現金取引をなくすため「請求書発行-預金支払いによる授受」「現金のみの取引は少額に限定して社員の立て替え払い」とするなどしてペーパーレスに比べてキャッシュレスは進んでいると思います。
経費精算システムやネットバンキング・ファームバンキングと支払い連動ができる各種システム等の導入で効率化されていると言えます。
預金取引
一般企業では主要な支払い取引は預金取引で行われ、主要な支払い・入金は預金口座を通してやり取りされています。
ネットバンキングで口座別の取引明細や残高も常に確認ができ裏付けが容易な方法で残高確認も簡単です。
手形取引
資金繰りの観点から長期決済の手形取引が使われるケースがあります。
受領したら一時的にでも金庫で保管して銀行に持ち込んで資金化手続きをしたり資金化までの管理が必要となります。
発行する側では手形発行手続きが必要ですし資金管理も手形の引き落とし日管理するという要素が増えます。
証憑や管理のために手形のコピーを保存するなどの作業もすることが多いです。
売上取引
売上の計上とともに売掛金の計上がされます。
証憑書として売上請求書の控えは必須ですが、取引の実態を精査するためにそれ以外にも裏付けとなる資料を入手することも重要となります。
取引先別の残高確認により売掛金の回収漏れの確認も重要な仕事になります。
万一回収漏れが発覚した場合には回収責任部門へ対応を確認したり会社によっては直接経理部門が顧客に確認作業をすることもあります。
仕入取引
仕入の計上とともに買掛金の計上がされます。
仕入先別の残高確認により買掛金の支払い漏れが無いかどうかの確認もします。
仕入内容は単価や納品タイミング等により計上時期や計上方法が異なる場合もあるので納品内容が請求書だけではわからない場合には納品書や見積書等が必要な場合もあります。
経費取引
経費の種類によって様々な取引がありますので、必要に応じて様々な証憑書の確認の要否を判断します。
社員立て替えで済む少額の取引である場合には領収書のみで済ます場合もありますし、交通費の精算等で社内申請書類(あるいはデータ)のみで社外からの証憑書を省略するケースもあります。
買掛金同様、仕入先別の残高確認により未払金の支払い漏れが無いかどうかの確認もします。
資産購入取引
固定資産計上が必要な物品や無形のソフトウェアの購入等の場合には単純に支払い額が経費額となる取引よりも取引の内容をかなり詳細に精査する必要があります。
どこまでの支出が資産計上が必要でどこまでが費用処理が可能なのか、これらは経理部門以外は判定が難しい領域と言えます。
特にIT絡みの支出は有形資産と無形資産の切り分けすら難しいケースも多数ありますので常に最新の情報をアップデートしておくことも重要です。
今回は企業の主要な営業時に発生する営業取引についてご説明しました。
取引の確認や会計システムへのデータ入力のボリュームは最も大量となる領域です。
適正かつ迅速に効率よく処理していくことが経理部門に求められる領域です。
単純に一つ一つのオペレーションのスピードや正確性の向上に努めるだけでなく最新のIT技術を取り入れたり適正な業務仕組みの構築を常に最適化する変革も求められる領域と言えます。
世の中では様々な仕事がAIにとって代わられる、といった議論がされていますが、経理領域で今後大きく様変わりする領域と言えるでしょう。
次回は決算仕訳についてお伝えします。
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